こんにちは、雪野です。
このたび、伊坂幸太郎さんの『グラスホッパー』を読みました。
グラスホッパーとは、バッタ(他にイナゴやキリギリス)を意味します。
著者の伊坂さんが「今まで書いた小説のなかで一番達成感があった」と
語るほどの作品で、『殺し屋シリーズ』の第一作目にあたります。
それでは、さっそく感想を書いていきますね。
本の概要はコチラ!!
書名:グラスホッパー
著者:伊坂幸太郎
出版:角川書店(2004/07/30)
頁数:322ページ
1.『グラスホッパー』感想:「殺し屋」業界へようこそ
1-1.なぜこの本を手に取ったか
主には伊坂幸太郎作品を完読するという目標からです。
数年前に、ふと書店で手に取った『逆ソクラテス』から
著者の世界観にドハマりし、今となってはこの目標を掲げて毎日読書しています。
本作に関して著者の代表作であることは認知していましたが
『殺し屋シリーズ』は四部作ということもあり、読むのを後回しにしていました。
この先、四冊読まないと次の作品に移れない…と思うと
一歩が踏み出せない気持ち分かりますか?
行動に移せない完璧主義の罠にかかった気分ですが、一歩踏み出せたので褒めてください(笑)
1-2.こんな人におすすめ
- キレイな伏線回収が好き
- 人間のドロドロした部分を表した作品に出会いたい
- 伊坂幸太郎の独特な世界観に浸りたい
1-3.あらすじ
「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。
どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。
鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。
一方、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの天才「蝉」も「押し屋」を追い始める。
それぞれの思惑のもとに──。
「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。
疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!
この作品では「鈴木」「鯨」「蝉」の3人の男の視点が順番に描かれて物語が進んでいきます。
まず驚いた(ワクワクさせてくれた)のが、目次がないこと。各章という区切りはありません。
『殺し屋シリーズ』という情報しか知らずに読んでいたので
どんな風に作品が進んでいくのか、全く予想が出来ず
目次なしという仕掛けが、作品に緊張感を与えてくれた気がします。
「鈴木」は、復讐のために。
「鯨」は、罪悪感を払拭するために。
「蝉」は、自由に生きるために。
『殺し屋』業界の重要人物「寺原」の長男が車に轢かれた。
この事件を中心に、それぞれの目的を持った三者の物語が絡み合っていきます。
1-4.「鯨」罪悪感が生む幻覚
この物語では様々な特徴のある『殺し屋』が描かれています。
「鯨」は自殺屋。依頼を受けて対象者を「自殺」というかたちで始末します。
超能力といった概念はこの物語には登場しませんが
『自殺を強要する能力』を持っているのが、この鯨というキャラクターです。
それは鯨がもたらす物理的な恐怖とは違います。
人間が抱えている罪悪感や無力感を増長させ、生きていることを苦痛にさせるというもの。
以下は物語終盤、鯨の頭の中の言葉です。
人はただ生きていて、目的はない。
『グラスホッパー』
死んでいるように生きているのが、通常なのだ。
その事実を知って、死を決断する。
本来、人間は自分で自分を殺すことが出来る。
鯨がその事実を知らせて、人々は死を決断してしまうのかもしれません。
しかし、そんな彼もまた自分の仕事の罪悪感から幻覚に悩まされています。
今まで自殺させてきた人たちが亡霊として現れるのです。
他人を自殺へ追い込むときと同じように
彼もまた自分の心の中で膨らむ罪悪感や無力感と戦い、蝕まれていたのです。
物語では、ある登場人物との出会いをきっかけに過去との清算と仕事をやめる決意を固めていきます。
個人的には特に気に入っている魅力的なキャラクターです。
鯨という名前も、圧倒的な存在に飲み込まれるという絶望感が
自殺屋の特徴にピッタリ合っていると感じました。
1-5.「蝉」自由になりたい操り人形
ナイフ使いの天才「蝉」は、岩西という男と手を組んで活動している殺し屋です。
主には岩西が依頼を受ける窓口、対して蝉は実行部隊として現場に赴きます。
蝉はナイフ捌きや戦闘に関しては非常に優秀ですが、性格にムラがあります。
また人を殺めることに罪悪感がありません。人間性が欠如している部分があります。
それもこの業界においては利点ですが…。
そんな蝉は過去に見た映画の主人公と自分が重なって見えてしまい
自由に生きることに囚われるようになってしまいます。
蝉は岩西に縛られて生きていると感じていますが、岩西は…。
この二人の関係性の変化と、終始嫌な印象の岩西というキャラクターの見え方が
読後変わる点も、蝉パートのおもしろいところです。
また殺しに抵抗のない一般人とはズレた感覚を持っている蝉ですが
だからこそ彼の人生観や発言には刺さるものもあり、魅力を感じました。
余談ですが、蝉の見た映画はガブリエル・カッソ監督の「抑圧」と記載されています。
ネットで検索してみたのですがヒットせず、この世には存在しない架空の映画のようでした。
本作や別の伊坂作品にも登場する「真実らしく聞こえる」ことが重要だ
という文章にまんまとやられた気分で、悔しさ半分嬉しさ半分、作者の思惑通り?に動かされました。
ゴダールとかそういう巨匠クラスの映画だと勝手に思っていたのに…(笑)。
罪悪感のない蝉、自殺屋の鯨と対比的な組み合わせも読んでいて面白く
両者の対決も本作の見どころのひとつです。
1-6.「鈴木」横取りされた復讐の決着
「鯨」「蝉」から書き始めてしまいましたが、いわゆる本作の主人公はこの「鈴木」です。
彼は鯨や蝉とは異なり、ほとんど一般人です。
教師をしていましたが、過去に妻を交通事故で亡くしました。
そのときの交通事故を調べていくと、ある男(寺原の長男)と「フロイライン(令嬢)」という会社にいきつきます。
そして交通事故の原因である寺原長男に復讐するため、フロイラインへ潜入しました。
冒頭では復讐のために追っていた寺原長男が、車に轢かれ殺害されてしまいます。
そこで登場したのが「押し屋」という殺し屋。道や駅、そういった場所で押して、轢かせる殺し屋。
復讐の対象を失い途方に暮れていた鈴木は、寺原長男を押したであろう押し屋を追うことになります。
本作のタイトルであるグラスホッパーを含む、昆虫についての会話があるのは
この鈴木パートがメインになります。以下は押し屋である槿のセリフです。
「どんなに緑色のバッタも黒くなる。バッタは翅が伸びて、遠くへ逃げられるが
『グラスホッパー』
人間は出来ない。ただ、凶暴になるだけだ。」
トノサマバッタは密集したところで育つと『群集相』と呼ばれるタイプになり
黒く、翅も長くなる。そして凶暴にも。
密集によるエサ不足を解消するため、別の場所へ行けるよう飛翔力が高くなると説明されている。
人間も同じでしょうか。都会に行けば行くほど黒くなってしまう。
押し屋「槿」の何を考えているのか分からない不気味さが緊張感を引き立てます。
また鈴木の脳内にはたびたび妻との回想シーンが流れます。
この妻が個性的でとても頼もしく何度も鈴木を導き、救っていきます。
そんな鈴木の復讐に決着はつくのか。
本作を読んでご確認ください。
自分の抱えた問題に対して奔走する、各々のキャラクターたちの魅力が光る作品。また本作のキレイな伏線回収も最高でした。
2.おわりに
『グラスホッパー』では、「殺し屋」業界という暗い設定に
伊坂作品特有の個性的なキャラクターが活き活きと躍動するコントラストが面白いです。
キャラクターごとの視点で進行するので、始めはバラバラだった物語が少しずつ絡まっていき
終盤にかけて収束していく展開には、本をめくる手が止まりませんでした。
冒頭でも記載したように「マリアビートル」「AX アックス」「777 トリプルセブン」と続く
殺し屋シリーズの第一作ですので、続編が非常に気になります。
あなたはどのキャラクターが好きですか?
是非、コメントで教えてください!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
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